水文環境

湿原では地下水位は、生態系を支える最も重要な環境条件のひとつです。水位が下がった状態が続けば、乾燥に強い植物が入り込んできて、湿原植物が衰退していくことになり、泥炭も分解されてしまいます。そこで湿原の健全さ状態を推しはかる指標として、越後沼湿原において、地下水位の計測を行っています。
 まず、湿原の大まかな地下水位面を知るために、2004年に湿原の中心部をとおる観測ラインを設け、地下水位の分布を調べました。図に示したとおり、湿原中心部の沼寄りでドーム状に地下水位が高く、沼や排水路に向かって低くなっていることがわかりました。このことは、この湿原が雨水によって涵養されていることを意味します。また地表面と地下水面が近いところではアブラガヤやヌマガヤのような湿原植物が、そうでないところではササが繁茂するといった具合に、地表面と地下水面の位置関係によって、生育する植物が違ってくることもわかりました。
 またいくつかの地点に地下水位計を設置して、連続的な観測も行ってきました。湿原植物のひとつヌマガヤが生育する地点の水位と、ササが生育する乾燥した地点の水位とを比較し、その差を取って見ますと図のようになりました。この図は、ヌマガヤの生育する地点の地下水位が年々下がり、ついにはササが生育する地点の水位よりも低くなったことを示しています。また変動幅も年々大きくなっています。湿原植物にとって厳しい環境になってきており、今後植生の変化に現れてくる可能性が読みとれ、十分な注意が必要といえます。


図1 観測ラインに沿った地下水位の変化


図2 地下水位の変化(ヌマガヤ地点の水位からササ地点の水位を差し引いた値)